正常圧水頭症センター
センター長あいさつ
患者さんの立場に立った特発性正常圧水頭症診療を目指し、
令和2年4月1日に「正常圧水頭症センター」を開設しました。
多職種によるチーム医療で、症状を総合的に評価をし、
体系的に治療をしてまいります。
是非、お気軽にお問い合わせ下さい。
センター長 渋川 正顕
診療日
月~土曜日 9:00~12:00 / 15:00~18:00
特発性正常圧水頭症とは
脳は、頭蓋内で髄液という透明な液体に浮いた状態で存在しています。この髄液は主に脈絡叢という場所で産生され、脳室で髓液の溜まりが流れていき、吸収されています。成人で1日に約500mlの髓液が産生され吸収されています。
「水頭症」は髄液が通常より多く頭蓋内に溜まった状態です。このうち、腫瘍などにより髄液の通過障害が生じ、髄液が貯留して頭蓋内の圧が上がることを「非交通性水頭症」といいます。一方、くも膜下出血や髄膜炎などで髄液の吸収障害が生じ、髓液が貯留することを「正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephals:NPH))」と いいます。この場合、髄液の交通は妨げられず、さほど頭蓋内圧が上がりません。
NPHにはくも膜下出血などが原因で生じる二次的なものと、その原因が分からない「特発性正常圧水頭症(iNPH)」があります。iNPHは加齢に伴い増加するといわれており、65歳以上の有病率は0.5〜2.9%で、10 万人あたり250人の方が罹患していると推定されます。なお、iNPHは認知症患者の5%を占めるといわれ、近年は治療可能な認知症として注目されています。
特発性正常圧水頭症の症状
iNPHの3大徴候は認知機能の低下-失禁-歩行障害として知られています。
いずれの症状も加齢に伴い出現することがあるため、症状が出ても「歳のため」と思われがちで、病気が進行するまで気づかないことが多いのも事実です。
脳神経外科では「治療可能な認知症」といわれています。他の病気と同様に早期発見が重要であることは間違いありません。
(1)認知症
- 集中力、意欲・自発性が低下(趣味などをしなくなる、呼びかけに対して反応が悪くなる、一日中ボーっとしている)
- 物忘れが次第に強くなる
(2)失禁
- 尿失禁
- 頻尿(トイレが非常に近くなります)
- 尿意切迫(我慢できるの時間が非常に短くなります)
(3)歩行障害
- 小刻み歩行(小股でよちよち歩く)
- 開脚歩行(少し足が開き気味で歩く)
- すり足歩行(足が上がらない状態)
- 不安定な歩行(特に転回のとき)
- 転倒する
- 第一歩が出ない(歩きだせない)
- 突進現象(うまく止まることができない)
特発性正常圧水頭症の診断
診断は頭部MRIやCTなどの画像診断と、腰椎穿刺(せんし/針を刺し液体を採取すること)で髄液を採取し、「髄液の排出により症状が改善するかどうか」というタップテストで診断します。
MRIやCTでは、脳萎縮とは違う特徴的な像がみられます。
画像ではDESH(Disproportionately Enlarged Subarachnoid-space Hydrocephalus)や脳梁角の鋭角化といわれる特徴的な像を示します。
DESHとは、脳室が拡大している状態・大脳の底部では萎縮が目立つのに、大脳の上部(頭頂部側)では脳の皺が目立たない状態、シルビウス裂と呼ばれる部分が開大している状態の3つの画像所見のことです。
そして、タップテストで認知機能や歩行速度などが改善すれば、iNPHと診断されます。なお、腰椎穿刺の際に、髄液圧が正常範囲(200mmH2O)を越えないことから、正常圧水頭症といわれます。
以上のように、診断は比較的容易であり、治療方法も確立されているため、早期発見、早期診断が最も重要です。
特発性正常圧水頭症の治療
診察の結果、症状、経過、画像所見から特発性正常圧水頭症を疑う場合、当治療センターでは7日間の入院検査を行いタップテスト(腰椎穿刺;脳脊髄液30ml排液テスト)を実施します。
タップテスト前後で歩行障害、認知症、排尿障害が改善するか種々の評価法を用いて診断します。
検査の結果、シャント手術の適応と診断した場合、手術加療を行います。
当治療センターの第1選択は、LPシャント(腰椎くも膜下腔-腹腔短絡術)です。頸椎~腰椎に脊柱管狭窄がないか脊椎MRIを実施しLPシャントが安全に実施できるか判断します。検査の結果でVPシャントを選択する場合があります。
術後約2週間はシャントの効果が十分に得られるよう、至適シャント圧の決定とリハビリを行います。術後7日目に抜糸を行います。入院は約2週間です。