めまいの救急診療について
一口にめまいといっても、さまざまな病態が考えられます。一般的には、めまいは患者の訴える症状により、回転性めまいと非回転性めまいに分類され、さらに非回転性めまいは、動揺性めまいと、失神型めまいに分類されます。動揺性めまいは、ふわふわした感じ、ふらつく感じ、宙に浮いたような感じなどと訴えられ、目が回るといった表現はしません。失神型とは、失神発作の前駆症状として位置づけられる症状であり、脳全体の血流低下を反映しています。頭が一瞬ふわーっとする感じ、気が遠くなる感じ、血の気が引いてくる感じ、目の前が真っ暗になる、頭の中が白くなるなどと表現されます。顔面は蒼白となり、多量の冷や汗をかくことが多いです。循環器疾患によるめまいは、多くの場合失神型めまいを呈します。循環器疾患によるめまいは、実際の臨床の場で大半が不整脈か迷走神経反射によるものであり、突然死など直接生命にかかわる可能性もあり注意を要するのです。
古くから、回転性めまいは耳性(良性発作性頭位めまい、メニエル症候群、前庭神経炎など)、非回転性めまいは循環器疾患に加えて中枢性疾患(脳出血、脳梗塞、脳腫瘍など)に多いとされています。それでは、回転性めまいであれば、症状は強くとも心臓疾患や脳疾患は除外され、生命予後が安全であるといえるのでしょうか。答えは否であります。実際には動揺性や浮動性の非回転性のめまいの訴えでも、暗所開眼下では、微弱な自発眼振が認められることも多く、したがってめまいの強弱(眼振の強弱)により、強い場合には回転性を、弱い場合には動揺感や浮動感を訴える場合があることも十分に理解しておくべきでしょう。ただし、失神型めまいに特徴的な眼前暗黒感(あるいは頭の中が真っ白になる感じ)は起立性血圧調節障害などの脳実質の虚血を意味することが多く、眼振も認められず、耳性めまいの可能性は極めて低いと言えます。
以上のことから、症状の訴え方は診断の一助とはなりえても確定診断のためには不十分であり、最終的には病院での検査補助が必要となります。ただし、めまいの確定診断は、実際には困難なことが多いです。検査精度の限界に加えて、救急の場において、症状が強い患者への検査の適用が極めて困難なことが理由として挙げられます。医師の専門性の欠如も時として確定診断を困難とします。しかしながら、どのような状況においても、悪性疾患の除外は必要です。すなわち、救急外来のめまい診療においては、致死的な病態でないという判断が最優先となります。従って、めまいの救急診療においては、まずは循環器系あるいは中枢性疾患の存在を疑い、バイタルサイン(血圧、脈拍数、呼吸数、体温)の確認とともに、心電図、胸部レントゲン、必要に応じて心臓超音波検査、頭部画像(出血が疑われればCT、梗塞が疑われればMRI)を実施することになります。CTのみでは急性期の脳梗塞の除外は困難なことが多く、MRIにしても初回の検査では梗塞像が明らかでないこともあり、MRAの併用や、症状が遷延する場合にはMRIの短時間でのフォローを行った方が良いのです。血液検査も参考にしながら全身性の背景疾患の関与が否定的となれば、症状緩和を目的にした対症療法を行いつつ、耳性めまいの確定診断に迫る努力を行います(当院の場合耳鼻科紹介も考慮する)。
参考書籍:めまい診療のコツと落とし穴 中山書店 文
責:診療部医局長 循環器内科 野村 勝彦